第一章:空室に対する姿勢
不動産投資における最大のリスクの一つは空室です。そして、不動産投資を行う以上、空室問題は絶対に避けて通れないものです。これは我々が部屋を借りる立場になってみると分かりやすいです。例えば、大学生で初めて一人暮らしをした部屋に何十年も住み続けている人や結婚後も同じワンルームに住み続けている人はほとんどいません。つまり、人生において引越しは定期的に必ず発生するもので、ライフスタイルに合わせて住む場所は次から次へと変わっていくものなのです。普通に考えれば当たり前のことですが、このイベントが不動産投資家の視点から見るとリスクになるのです。
そして、空室の期間はもちろん賃料は全く入らないうえに費用(ローン返済、管理費、修繕積立金など)は容赦なくかかってきます。したがって、空室は不動産賃貸業における当然の出費、すなわち必要経費として認識しておくことが重要です。よって、その経費がかかることを事前に認識しておいて、以下に述べる備えをしておけば過度に空室を恐れることはなくなります。
まとめ
・不動産投資における最大のリスクの一つは空室。
・空室問題は絶対に避けて通れないもの。
・空室問題への備えを事前にしておけば過度に空室を恐れることはなくなる。
第二章:空室への備え
この点については、空室を可能な限り未然に防ぐ方法という観点と、空室が出た場合に資金ショートを起こさないようにする備えという観点から話を展開していきます。
まず、前者についてです。空室が最も出やすいのはどのタイミングか皆様ご存知でしょうか。まずは2月から3月です。これは進学や就職、人事異動のタイミングで、多くの場合は都道府県を跨いでの引越しになるケースが多いです。このシーズンに引越し業者がなかなかおさえられなかったり、引越しの費用が上がったりするのはそのためです。そして、これらが要因の退去は防ぎようがないといえるでしょう。なぜなら、投資家側にコントロールできる要因ではないためです。一方、防げる退去というのも存在します。それは更新を迎えるタイミングでの退去で、退去が出るタイミングとして最も多いのがこのタイミングです。これは私が勤務する会社でデータをとって確認したことですので、客観的にも正しいといえます。
そもそも更新は賃貸借契約の満了時、すなわち得てして契約開始から丸2年が経過したタイミングで発生します。そして、更新にあたって賃借人は更新料として新賃料の1ヶ月分を賃貸人に支払うことになっている場合が多いです。したがって、賃借人は更新料を支払うならいっそ引っ越そうかと検討するというわけです。そして、このタイミングでの退去は賃借人の意思によって決められるので、工夫をすれば防ぐことも十分に可能です。その具体的な方法を述べていきます。最も効果的なのは、更新を迎える3ヶ月程度前に退去する意思があるかを賃借人に直接聞くことです。なお、実際に賃借人に連絡をするのは管理会社ですので、管理会社にその旨の依頼をしましょう。そして退去の意思がある場合はその理由を聞くことが重要です。その際に、設備が老朽化してきた、床やクロスがボロボロで住み心地が悪いといった点が退去の理由であるなら、そこを修繕することを条件に更新してもらえるチャンスが生まれます。その場合、一時的に修繕費がかかりますが、退去されるよりは安く済む場合の方が多いものです。他にも、更新料が原因なのであれば支払いを免除することも検討するべきです。このように、更新してもらう機会を逃してしまうことがないように不動産投資家として対策することは、満室経営を維持するうえで非常に重要な仕事の一つです。
次に、後者についてです。これは事前に万全の退去対策をとったうえでも退去が出てしまった場合に備える資金面での施策です。まずは退去の頻度とその際にかかる費用を予め見積もりましょう。賃貸借契約の期間は一般的に2年間ですので、2年に1度退去が出ると想定しておけば無難です。そして、次の賃借人が決まるまでの期間は2ヶ月と想定します。したがって、この2ヶ月間は管理費および修繕積立金、融資を受けている場合は返済を賃料収入で賄うことができなくなることになります。これらに加えて、原状回復の費用、仲介業者に支払う客付報酬(以下、「AD」といいます。)が退去の都度かかります。以上の必要経費を退去に備えて予めプールしておく必要があります。なお、原状回復の費用は間取りや専有面積、築年数によって大きく異なりますが、概ね1K・1Rであれば10万円、1LDKであれば15万円、2LDKであれば20万円、3LDK以上であれば30万円以上という金額が目安になります。これらの必要経費は毎月の賃料収入や本業からの収入を一部ずつ積み立てることで用意しておくと安心です。
まとめ
・空室への備えは、空室を可能な限り未然に防ぐ方法という観点と、空室が出た場合に資金ショートを起こさないようにする備えという観点から考える。
・未然に防げる退去は前もって賃借人へのヒアリング等の手を打つ。
・退去が出た場合に備えて、必要経費を見積もり、プールしておく。
第三章:空室が出た場合の対処法
空室が出た場合の備えが十分にあり、資金ショートを起こさない状況を確保することも重要ですが、それに加えて早急に次の賃借人を探すことも同様に重要です。そこで、次は入居者募集に関する戦略について述べていきます。迅速かつ適正賃料で入居者を決めるためには大きく分けて次の4点が重要であると私は考えております。それは、適切な条件設定・早急な募集開始・募集情報の拡散・原状回復工事の工期管理の4点です。1点ずつ解説致します。
1:適切な条件設定
賃料や礼金、ADは設定の加減がかなり難しいものです。賃料が相場よりも安く、礼金なしでADが高ければ閑散期でも十分早期に入居付けができるでしょう。しかし、当然それでは経営上の収支が悪くなるため、投資家および経営者として入居付けに失敗している状態になってしまいます。一方で、逆の条件設定で募集をしていると、繁忙期でも入居付けに苦労することになり、これも入居付けに失敗している状態になってしまいます。それでは、募集条件はどのように設定するのが最も適切なのでしょうか。募集活動をする時期(繁忙期か閑散期か)を分けて、時系列順に述べていきます。
まず、繁忙期の場合についてです。繁忙期は一気に多くの人が動き、賃貸物件のニーズが高まるため、不動産賃貸市場においては貸し手市場になります。したがって、繁忙期に募集活動を行う場合は強気な条件を設定するべきです。賃料を通常時よりも5~10%程度上げ、礼金を1~2ヶ月、ADを0~1ヶ月にしても十分に勝負ができるでしょう。賃料および礼金収入を少しでも増やし、AD支払いによる支出を少しでも減らすことで収支の拡大を見込む姿勢で募集活動をするべきであるといえます。しかし、いつまでも強気な条件で募集を続けていくのも禁物です。なぜなら、強気な条件を継続した結果、繁忙期に入居付けができずに不良在庫化してしまうというリスクシナリオも想定できるためです。そこで、募集開始時からの経過日数に応じて条件を少しずつ緩和していくというのが最も合理的といえます。例えば、募集開始直後は賃料10%上げ、礼金2ヶ月、AD0と設定し、2週間単位で反響や内覧件数を測定しながら徐々に条件を緩和することで少しでも有利な条件で繁忙期のうちに決めきるという方法が有効です。ポイントは一気に条件緩和をしすぎないことです。
例えば、まずはADを0.5ヶ月付けて様子見、次に礼金を1ヶ月まで減らして様子見、最後にADを1ヶ月まで増やし、礼金を0まで減らして賃料も相場通りまで下げるというように、機会損失にならないよう繁忙期の残日数と反響および内見数を随時確認しながら策を講じるようにしましょう。
次に、閑散期の場合についてです。閑散期は繁忙期と正反対に賃貸物件のニーズが少なくなるため、借り手市場になります。したがって、閑散期に募集活動を行う場合は強気な条件設定にするべきではありません(時期を問わず入居希望者が後を絶たない一等地の高級物件などの超人気物件はこの限りではありません)。賃料は通常時よりも下げる必要まではありませんが、市況によっては通常時から5~10%程度の下落は見込んでおくべきです。また、礼金も取れない、取れたらラッキーくらいのスタンスがいいでしょう。そしてADも初期設定時から1ヶ月付与して、仲介業者への訴求力を高めることを考えるべきです。これらに加えて、フリーレントという方策も有効な物の一つです。フリーレントとは、賃借人の入居開始後も一定期間(半月~1ヶ月)は賃料が発生しない、すなわち一定期間タダで部屋を貸すことを指します。賃貸人からすればさらなる出費にはなりますが、不動産賃貸業は借りていただいてはじめて成り立つビジネスですので、入居付けの方策の一つとして認識しておきましょう。以上のように、閑散期においては「損して得とれ」の考え方で入居付けに多少の出費がかかっても早く借りていただくことで空室の傷口を最小限に止めることを優先すべきです。しかしながら、賃料を下げすぎると後々の収支悪化に直結するので、適切な加減を見極めるところが投資家および経営者としての腕の見せ所です。
このように、同じ物件でも繁忙期と閑散期では市況が大きく異なります。したがって、繁忙期プライスと閑散期プライスを使い分けて募集戦略を立てること、そして、反響および内見数を見ながら現状の募集条件が現在の市況において適切か否かを定期的に効果測定していくことが非常に重要です。
2:早急な募集開始
不動産の取引市場は売買、賃貸を問わずとにかく情報戦です。したがって、いかに早く自分の部屋が募集に出ているという情報を市場に出すかが早期成約の鍵を握っています。仲介業者はレインズという業者用のポータルサイトで新着物件の情報を毎日チェックしていますし、エンドユーザーもスーモやアットホームなどのポータルサイトを敏感にチェックしています。情報を公開しないことには自分の部屋が募集に出ていることが誰にも分からない状態のままですので、この点にまず取り掛かりましょう。それでは、どのタイミングで募集開始の情報を出すのが最短なのでしょうか。この点を以下解説していきます。
最短での募集開始は、現賃借人の退去申出があったタイミングです。具体的な説明に移る前に、現賃借人の退去から次の賃借人が入居するまでの流れを簡潔に説明致します。現賃借人が管理会社に解約申出をする(このタイミングで管理会社から賃貸人にその旨の連絡が入ります)、解約期限日(解約申出日から1~2ヶ月後)および退去日(解約期限日以前のいずれかの日にち)が決まる、原状回復工事をする、次の賃借人が入居するというのが大きな流れです。実際には現賃借人の解約申出があったタイミングではまだ現賃借人が住んでいるのですが、このタイミングから募集を開始することができます。募集条件に「◯月×日より入居可能」といった文言が書かれているのはこのためで、その日までは現入居者がその部屋を使えるという状況なのです。したがって、退去申出があったタイミングですぐに管理会社と協力して速やかに募集開始をしましょう。
3:募集情報の拡散
不動産の取引市場は情報戦であると先述致しましたが、その観点からすると情報をいかに早く市場に出すかということに加えて、いかに広く拡散するかということも極めて重要です。そこで、募集情報を拡散するという点について解説していきます。
まず、ポータルサイトへの掲載は必須です。ネットが普及している現代において、部屋を探す際にいきなり不動産屋に行くことはほとんどありません。エンドユーザーはまずスーモやアットホームなどのポータルサイトで住みたい物件に目星を付けてから不動産屋に問い合わせをするというのが主流になっています。したがって、エンドユーザーが目にするプラットフォーム上に情報を載せるというのは必須条件です。また、先程も名前が出てきたレインズというポータルサイトにも情報を載せるようにしましょう。これは仲介業者への訴求のためで、彼らはこのレインズ上で新着物件やお客様に案内する物件の情報収集を毎日行っているからです。実際にお客様に物件を案内するのは仲介業者ですので、「彼らに動いてもらうためにはどうすればいいか」という視点を常に持っておくべきです。なお、これら情報掲載は管理会社が行う業務の範疇ですので、我々投資家の仕事は管理会社に素早く動いてもらえるように働きかけることです。そして、その管理会社が何種類のポータルサイトに情報を掲載しているのかをヒアリングして、十分な募集活動ができているかをチェックするようにしましょう。
4:原状回復工事の工期管理
原状回復工事は入退去の都度必ず発生するもので、この工事が終わらなければ次の賃借人の入居ができません。したがって、原状回復工事は可能な限り早く終わらせるべきといえます(一方で、工事に不備があった場合は次の賃借人からのクレームや早期退去に繋がりますので、品質が最優先です)。そして、工事の手配および工期管理は管理会社が窓口となって行なっているものであるため、管理会社に早急に動いてもらうように働きかけるのが我々投資家の仕事です。しかし、退去に伴う原状回復工事が重なる時期(特に2、3月)は管理会社側も工事業者側も手一杯になり、工期の管理にまで目が行き届かないこともあるので、工事内容と工期の見積もりをもらったタイミングで工期の交渉をし、工事開始後も定期的に状況を確認するようにしましょう。一日でも早く自分の物件を商品化するという視点を持って原状回復工事に当たりましょう。
賃貸経営をしていれば空室は必ず発生する不可避的なリスクですが、我々投資家の心掛けと工夫によって未然に防げたり、出てしまった空室を早期に埋めたりすることも十分に可能なのです。このように、空室という最大のリスクでさえも、ある程度は投資家の手腕によってコントロールできるという点も不動産投資の魅力であり優位性であると私は考えております。
まとめ
・空室が出た場合の対処法は、適切な条件設定・早急な募集開始・募集情報の拡散・原状回復工事の工期管理の4点である。
・上記のいずれの対処法においても常に費用対効果とスピード感を持って柔軟な対策を講じることが重要である。
・空室という最大のリスクでさえも、ある程度は投資家の手腕によってコントロールできるという点は不動産投資の優位性の一つといえる。