一口に不動産投資といっても、不動産には様々な種類があります。例えば、住居(一棟アパート、区分マンション)、テナントビル(商業ビル、オフィスビル)、ホテル、駐車場、更地などです。その中でもサラリーマンなどの個人の方が「不動産投資」と聞いてまず思い浮かべるのは、住居系不動産(アパートやマンション)への投資ではないでしょうか? そこで、本章ではその中でも個人に最も人気かつ取り組みやすい住居系不動産についてピックアップしたいと思います。
住居系不動産もさらに一棟物件と区分マンションに大別されます。不動産投資を検討する中で、そのどちらに投資すべきかお悩みの方のために両者の違いとそれぞれのメリットおよびデメリットを解説したいと思います。
一棟物件投資のメリットとデメリット
まず、一棟物件への投資は土地と建物を丸ごと購入するという投資形態です。つまり、土地も建物も全て自分のものということです。
それでは、メリットとデメリットを細かく詳説していきます。先ずはメリットからです。
一棟物件投資のメリット1:物件を自分の判断でコーディネートできる
1棟物件においては、例えば、建物の外壁をいつどのように塗装するか、駐車場をどのように整備するかといったあらゆることが投資家自身の判断でアレンジできます(当然、法律や条例による制限はありますが)。すなわち、1棟物件は投資と経営のハイブリッドといえます。
したがって、経営である以上は一定程度の専門知識やマーケットの認識、そして費用対効果の意識が何をするにも必要であるということです。
例えば、築古で空室だらけのアパートを安く購入して、外装から部屋の中、躯体の中までリノベーションをして満室にしたうえで高く売るということも1棟物件投資特有の旨みです。私は勤めている会社でまさにこの事業に携わっていますが、1棟物件はアパート経営の面白みが凝縮されていると日々感じています。
古くて見栄えの良くないアパートがリノベーションされて新築物件のように生まれ変わって満室稼働する姿は感動ものです。不動産が好きで、自分の思うように物件を1からコーディネートしてみたいとお考えの方は1棟物件が向いていると思います。
一棟物件投資のメリット2:利回りおよびキャッシュフローの点で有利
1棟物件を購入する場合、基本的に多くの方が大都市圏よりも郊外や地方に購入することになると思いますので、その前提で話を進めていきます。
なぜなら、1棟物件は価格が高いため大都市圏の一等地に買うことは基本的に困難であるためです(金融資産が数億円、数十億円ある方や年収が数億円ある方はこの限りではありません)。
一方で、郊外や地方の物件の方が一般的に利回りが高いことが多いのが実情です。それはシンプルに土地の価格が安いことや、大都市圏に比べて投資用不動産の需要が少ないため物件の価格が安く設定されていることに起因します(取得価格が高ければ利回りは低くなり、安ければ利回りは高くなります)。
したがって、金融機関から融資を受けて物件を購入し、毎月の返済を賃料収入の中で賄っても手元にお金が残るということです(これをキャッシュフローといいます)。
つまり、購入後も高稼働率を維持できるのであれば、1棟物件のメリットを十分に享受できます。
一棟物件投資のメリット3:空室率を下げやすい
この点は一見すると、全くピンとこないかもしれません。それは、1棟物件は郊外や地方に購入することが多いと先ほど述べたためです。当然、賃貸需要が多いのは郊外や地方よりも圧倒的に都心です。では、「空室率を下げやすい」とはどのような意味でしょうか? その答えは1物件の部屋数に対する空室数の割合です。
例えば、1棟に10室ある物件を購入したとして、10室のうち1室のみ空室の場合は空室率10%です。これに対し区分マンションの場合は基本的に1室単位での購入になるため、1物件しか所有していない場合は1室の空室で空室率100%、すなわち賃料収入が0になり、赤字確定です。
つまり、同じ1室の空室があったとしても1棟物件と区分マンションでは賃料収入に大きな差が出るのです。
この差は金融機関からの融資を受けて購入している場合に特に顕在化します。先ほどの例でいうと、1棟物件であれば空室率10%なので、既存の賃料収入からでも返済を十分に賄えるでしょう。一方で、区分1物件のみを所有している場合は空室率100%なので、本業からの収入や貯蓄から返済をしなければならなくなります。
一棟物件投資のメリット4:出口戦略のバリエーションが多い
1棟物件投資と区分マンション投資の大きな違いの一つは、土地を購入している割合の大きさです。前述のように、1棟物件投資においては、土地も全て自分のものになります。一方で区分マンションにおいては、土地の所有権はほとんどない場合が多いです(詳細は後ほど解説致します)。
したがって、物件を購入した後に周辺環境に大きな変化があった場合(大規模開発、工業団地や大学の移転など)は、建物を取り壊したりコンバージョンしたりして住居以外の形態で運用ひいては売却をしていくことが可能です。
例えば、住居として運用している最中に大口の借り手だった工業団地や大学が移転になった場合を考えてみましょう。住居としての借り手が付かないのであれば、経営は大幅に悪化するでしょう。
そこで、建物を取り壊して駐車場にコンバージョンする、あるいは更地にして土地として売却するということも十分に可能です。区分マンションにおいては、このような経営判断ができないので上記の例のような事態が起こった場合は、賃料を下げて何とか入居者を付けるか、安く投げ売りすることしかできません。
次に、1棟物件のデメリットについて述べます。
一棟物件投資のデメリット1:価格が高い
先ほども少し触れたように、1棟物件は地方であっても数千万円から数億円と価格が高いです。当然、中には数百万円の1棟物件もありますが、そのように極端に安すぎる物件には手を出さない方が安全です。
立地が悪く入居者が全く付かない、建物に重大な欠陥がある(傾きや違法建築など)といった安いなりの理由がきちんとあるためです。その観点から述べると、不動産投資においては「安かろう悪かろう」の理屈が通用するケースが非常に多いです。割安な物件を見つけた際は仲介業者や売主に詳しく事情を聞くようにしましょう。
価格が高いということは、それだけ多くのキャッシュを用意する必要や金融機関からの融資を受ける必要があります。したがって、数百万円台でも健全な物件が数多くある区分マンションよりも購入ハードルが高いというのがデメリットです。
一棟物件投資のデメリット2:地方の物件を買わざるを得ないことが多い
前述した通り、1棟物件への投資においては価格の観点から多くの場合地方に物件を買うことになります。そこで、地方に物件を購入するにあたってのリスクについて説明していきます。
まずは「地方の物件は入居付けがしにくい」ことです。当然のことですが、大都市圏と比べると地方においては賃貸需要が圧倒的に少ないのは事実です。
私も勤め先の会社で入居付けをしているので肌感覚で分かるのですが、大都市圏(特に東京23区)の物件は放っておいても入居者が付く状況であるのに対し、地方の物件は募集活動に工夫をしないとなかなか決まりません。利回りが高かったとしても、入居付けができないのであればまさに絵に描いた餅になってしまいます。
したがって、地方の物件を買う際は「入居付けができるエリアか」という観点を常に持っておくことを強くお勧めします。
次に、「低属性の不良入居者がいる」リスクがあるということです。
もちろん地方の全ての物件においてというわけではありませんが、リスク要因として留意しておくといいと思います。これは実際に私が勤め先の会社で体験した話ですが、某地方の奥地にある物件であまりにも入居者が決まらず、定職に就いていない方や生活保護受給者の方、外国人を入居させるほかないとの判断で、そのような方にお住まいいただくことになりました。
しかし、その後しばらくして夜逃げや近隣トラブルが頻発し、空室だらけの不良物件が更なる不良物件になってしまったのです。
このように、地方においては
・入居付けに困る
・賃料を極限まで下げる
・入居者属性を不問にする
・不良入居者だらけの物件になってしまう
というリスクがあるということを念頭に置いておきましょう。
一棟物件投資の投資デメリット3:管理手間がかかる
先ほど1棟物件への投資においては土地と建物を丸ごと購入することになると述べました。それは土地と建物について全て自分の思うようにコーディネートできるというメリットがある反面、オーナーが自分で行わなければならない決定事項が多岐に渡るため管理手間が発生するということです。
例えば、外壁塗装が経年劣化している、屋上の防水機能が低下している、消防設備を交換しなければならないといった事柄です。一方で区分マンションではそのような共用部に関する事項は管理会社というプロが運営する管理組合(各部屋のオーナーで構成される合議体)において決定がなされます。
したがって、共用部についてはその多くを管理会社や管理組合の決議に委ねることができます。当然1棟物件においても管理会社に代行させることはできますが、最終的な決定はオーナー自身で行わなければなりません。
一棟物件投資のデメリット4:流動性が低く、売却時に苦戦するリスクあり
1棟物件は価格が高い、かつ、地方に買わざるを得ないことが多いということから導ける帰結として、売ろうと思った時になかなか買い手が見つからないというリスクがあります。私も勤め先の会社で地方の1棟物件の売却にも携わっておりますが、売りに出してから買い手がスムーズに見つかるということは稀です。
それはやはり価格の高さとエリアという二つの要素によるものである場合がほとんどです。一方で私が個人で所有している大都市圏の区分マンションはかなりの頻度で不動産業者からの売却依頼が来ますし、個人的な肌感覚としても売りに出したとしても長期に渡って売れ残るということは想定しにくいと感じております。
そしてこれも価格とエリアによるものだと私は考えております。長期保有をするのであれば、流動性(買い手が付くか)はさほど気にしなくてもいいと思いますが、資産の組み換えを想定して比較的短期での売却を想定するのであれば、流動性の観点は間違いなく持っておくべきでしょう。
区分マンション投資のメリットとデメリット
そもそも区分マンション投資は1棟丸ごと物件を買うものではなく、1棟の中の部屋を1室単位で購入していくものです。したがって、同じ棟内であっても101号室と102号室ではオーナーが異なります。そして、各部屋のオーナーはそれぞれが所有する住戸の内部(専有部といいます)についてのみ独自の決定権を有しており、共用部については管理組合の決議に従うことになります。
以上のことを念頭に置いて、区分マンション投資のメリットとデメリットを詳説していきます。なお、区分マンションの解説においては、大都市圏に物件を購入することを前提に話を進めていきます(郊外や地方で区分マンションを購入するメリットがあまりないため)。
では、まずはメリットから説明していきます。
区分マンション投資のメリット1:価格が安い
区分マンションは大都市圏(東京・大阪・名古屋など)であっても安いものでは数百万円から購入できます。不動産投資をまずは小さく始めてみたいとお考えの方には非常に有効な選択肢であると思います。また、そのくらいの価格であれば金融機関から融資を受けずにキャッシュで購入するというのも合理的だと思います。
手元のキャッシュは減りますが、金融機関への返済がないため賃料収入(管理費・修繕積立金を差し引いた金額)が丸々手元に残ります。毎月数万円の副収入があれば生活も目に見えて変わると思います。
加えて、価格が安いことによる大きなメリットがもう一つあります。それはエリアを分散して複数の物件を持てるということです。例えば、3000万円分の不動産を購入できるとします。
1棟物件を購入するとなると、3000万円では郊外または地方に1件買って使い切るくらいでしょう(上述の「安かろう悪かろう」の観点から、安すぎる1棟物件は選択肢から除外します)。一方で、区分マンションでは大都市圏に3戸ないし5戸買うことが十分にできます。
実際に私は3000万円で横浜市・大阪市・神戸市のそれぞれ主要路線沿いに計4件の区分マンションを購入致しました。長期保有を前提に物件を購入するのであれば、エリアや物件を分散させておいた方が安心です。
区分マンション投資のメリット2:大都市圏に物件を持てる
前に述べた価格が安いというメリットとも関連してくるのですが、区分マンションであれば大都市圏に物件を購入することができます。この点、賃貸需要が多いのは圧倒的に大都市圏ですので、入居付けは比較的容易であり、安定的に賃料収入を稼いでくれる物件を持つことができるといえます。
不動産賃貸業で最も重要なのは「入居付け」です。その最重要ポイントをしっかりと押さえてくれるのが大都市圏の物件です。
区分マンション投資のメリット3:管理手間が少ない
区分マンションの概要説明のところでも申し上げました通り、区分マンションにおいては管理会社という管理のプロが運営する管理組合という組織が存在します。その組合で総会が定期的に行われ、マンション全体の運営方針を決めていくのです。
共用部の修繕計画やバリューアップについてもそこで決議されます。
管理組合は各部屋のオーナーで構成される合議体なので、基本的に総会には参加して意見表明すべきものではありますが、マンション全体の運営方針について管理組合の決議に委ねることもできます。したがって、1棟物件と比較すると管理手間が少ないのも事実です。
区分マンション投資のメリット4:流動性が高く、売却がしやすい
これまでも述べてきた通り、区分マンションは大都市圏に比較的安く物件を持つことができるため、初めて不動産投資を行う方や少額のキャッシュで安定的に資産運用を行いたい方の購入対象として非常に適しているといえます。したがって、1棟物件と比べると買い手が付きやすいという事実もあります。急にまとまったキャッシュが必要になったときに比較的買い手が見つかりやすいというのも安心です。
次に、区分マンションのデメリットについて述べます。
区分マンション投資のデメリット1:専有部のアレンジしかできない
1棟物件と区分マンションで大きく異なる点の一つが、共用部に手を加えられるかという点です。1棟物件においては共用部も含めて全てオーナーの所有物ですので、原則自由に手を加えることができます。
一方で区分マンションにおいて共用部は組合員、すなわち、オーナー全員で共有しているものとして扱われます。したがって、いかに物件のバリューアップに繋がる良いアイデアでも、個々人の判断で共用部に手を加えることは許されません。共用部について手を加えたい場合は管理組合において合意形成をする必要があります。
区分マンション投資のデメリット2:利回りが低い
大都市圏で行う区分マンション投資においては、地方の1棟物件ほどの高い利回りは基本的には期待できません。したがって、金融機関からの融資を受けて購入する場合、毎月のキャッシュフローにも期待できません。むしろ、毎月の返済分を賃料収入で賄えず、赤字になってしまうケースもあります。その要因の一つとして、区分マンション特有の固定費が挙げられます。それは、管理費・修繕積立金です。
管理費とは、エレベーターや照明といった共用部のメンテナンス費用、管理会社への報酬などに充てるため各オーナーから毎月徴収されるお金です。
修繕積立金とは、屋上防水や外壁塗装といった共用部の修繕に備えて、各オーナーから毎月徴収し積み立てられるお金のことです。
そして一つ厄介なのが、これらの固定費は住戸が空室である場合にも当然にかかるものであるということです。やはり不動産投資においては入居付けが命であるということがお分かりいただけると思います。これらの収支を事前に見積もり、シミュレーションでキャッシュフローが赤字になることが分かった場合は指値をしてより安い価格で購入するか、自己資金を入れて借入金額を少なく抑えるかのいずれかの手段を取るべきです(賃料収入を上げることも手段の一つですが、あまり現実的ではありません)。
区分マンション投資のデメリット3:空室率が0か100になるリスク
これは1棟物件のメリット3で既に述べた通りですが、区分マンションは1室単位での購入になるため、仮に1室しか所有していない場合は1室の空室で空室率100%になってしまいます。空室が出ても資金的に耐えられるように、エリアを分散させつつ複数戸に投資することが重要です。
区分マンション投資のデメリット4:土地の所有権がほとんどない
区分マンション投資においては、1棟物件投資のように更地にしたりコンバージョンしたりして運用・売却するという選択肢が取れません。したがって、周辺環境の変化によって借り手が付かなくなったときは、賃料を下げて何とか入居者を付けるか、安く投げ売りすることしかできません。
このリスクを回避するためには、購入前に周辺の開発の有無(嫌悪施設ができる予定がないか)、当該エリアの賃貸マーケット調査(工業団地や大学などの特定の借主に依存していないか)を入念に行っておく必要があります。
まとめ
・不動産投資には1棟物件と区分マンションをはじめとして多くの種類がある
・それぞれ一長一短があるため、自分に合った物件を選ぶことが重要